『愛の探偵たち』収録作品 年表
| 作品名(日本語/原題) | 掲載日 (掲載誌) |
|
|---|---|---|
| 1 |
ジョニー・ウェイバリーの冒険 The Adventure of Johnnie Waverly |
1923年10月10日 (The Sketch) |
| 2 |
愛の探偵たち The Love Detectives |
1926年12月 (The Story-Teller) |
| 3 |
四階のフラット The Third Floor Flat |
1929年1月5日 (Detective Story Magazine) |
| 4 |
奇妙な冗談 Strange Jest |
1941年11月 (Strand Magazine) |
| 5 |
昔ながらの殺人事件 Tape-Measure Murder |
1941年12月 (Strand Magazine) |
| 6 |
管理人事件 The Case of the Caretaker |
1941年12月 (Strand Magazine) |
| 7 |
申し分のないメイド The Case of the Perfect Maid |
1942年4月 (Strand Magazine) |
| 8 |
三匹の盲目のねずみ Three Blind Mice |
※イギリス未掲載 (後述) |
「三匹の盲目のねずみ」はイギリスの雑誌に掲載されなかった
この短編は、もともとメアリー王妃への80歳の誕生日プレゼントとして依頼されたラジオドラマ用の脚本でした。
クリスティはこれを短編小説化しましたが、その直後に自身が『マウス・トラップ(ねずみとり)』というタイトルで舞台劇化しました。
「舞台がイギリスで上演されている限り、原作短編はイギリス国内で単行本にしない」という契約を結んだため、イギリスの読者は短編版を読むことができませんでした。
そのため、この「三匹の盲目のねずみ」という短編が読めたのはアメリカの雑誌(Woman's Home Companion、1948年)のみで、イギリスのファンがこの話を読むことができたのは、舞台が終わったずっと後になってからです。
この作品集を読むことは、「イギリスのファンが当時読むことを許されなかった幻の短編」を含めて楽しむことになります。
「ジョニー・ウェイバリーの冒険」の誘拐トリック
この作品は1923年の極めて初期のポアロものです。この頃のクリスティは、当時のアメリカで流行していた「誘拐事件」というテーマをイギリスの屋敷に持ち込む実験をしていました。
後年の傑作『オリエント急行の殺人』へと繋がる「誘拐と心理」への関心が、すでにこの短編で芽生えているのが分かります。
「愛の探偵たち」のクィン氏の欠席
この短編集の日本版タイトルにもなっている「愛の探偵たち」は、本来はサタースウェイト氏が登場する「クィン氏シリーズ」のような構成ですが、クィン氏本人は登場しません。サタースウェイト氏が一人で頑張る、珍しい番外編的な立ち位置の作品です。
「四階のフラット」のポアロは「夜遊び中」
この作品のポアロは珍しく、夜の11時過ぎにナイトクラブから帰ってきた設定です。普段は規則正しい生活を重んじるポアロが、夜更かしをして事件に遭遇するという、初期短編らしい少し浮かれた(?)雰囲気が漂っています。
実は「ミス・マープル」のプロトタイプ集
この収録作には「奇妙な冗談」「申し分のないメイド」「管理人事件」など、ミス・マープルの短編が多く含まれています。
これらのマープルものは、1940年代の戦時中に書かれました。クリスティは空襲の下で、自分の故郷のような静かな村(セント・メアリ・ミード)を舞台にした物語を書くことで、心の平穏を保っていたと言われています。
おわりに
歴史や日付のズレは、それだけ多くの国で、多くの雑誌が「クリスティの新作を載せたい!」と争奪戦を繰り広げた証拠でもあります。
『愛の探偵たち』は、単なる短編集というよりも、「当時の読者がアクセスできた/できなかったテキストの差」や、「雑誌メディアと劇場興行の力関係」まで含めて味わえる、一種の出版史的資料でもあります。
アガサ・クリスティ作品一覧・年表

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